【イベントレポート】コベカツキックオフミーティング 〜コベカツと神戸の子どもたちの未来を考える〜
「やりたいことに、きっと出会える」——。神戸市では、子どもたちの新たなチャレンジを地域社会全体で応援する取り組み「コベカツ」がいよいよ本格的にはじまりました。
子どもたちが自分の未来を思い描き、いきいきと活動に取り組める環境づくりを目指すコベカツの取り組みを市民の皆さまに知ってもらうため、2026年9月20日(日)に神戸朝日ホールにてキックオフミーティングを開催しました。多彩なゲストの言葉から、コベカツの魅力や、子どもたちの新たな可能性について共に考えた当日の模様をお届けします。
【第1部】 なぜ今「コベカツ」なのか
第1部では、フリーアナウンサーの田中大貴氏の司会のもと、名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授の内田良氏による中学校部活動の現状と、地域クラブへと移行していく背景についてのプレゼンテーションを経て、元プロ野球選手でNPO法人 Kizuna 理事長の鳥谷敬氏、神戸市教育委員会の福本靖教育長を交えてさまざまな議論が行われました。
1981年生まれ。東京都出身。聖望学園(埼玉)では3年の夏に甲子園に出場。早稲田大学に進み、2年に東京六大学野球で3冠王に輝く。2003年ドラフト自由枠で阪神タイガース入団。13年にはWBC日本代表に選出。通算2000安打を達成し連続出場記録は歴代2位の1939試合。2020年に千葉ロッテマリーンズに移籍し、21年に現役を引退。2025年にNPO法人 Kizunaを設立し、 中学校の部活動支援やアスリートのセカンドキャリアの課題解決など精力的に活動。
名大大学院教育発達科学研究科で児童虐待を研究。専門は教育社会学。学校のなかで子どもや教師が出遭うさまざまなリスクについて、 調査研究ならびに啓発活動をおこなっている。ヤフーオーサーアワード2015受賞。著書『学校ハラスメント』『ブラック部活動』『「児童虐待」へのまなざし』他、共・編著多数。
1980年生まれ。兵庫県出身。慶應義塾大学卒業後、2003年からフジテレビアナウンサーとして、 「とくダネ!」「すぽると!」等を担当し、2018年に独立。現在は70社以上の企業コンサルティング・事業開発を手掛けるほか、スポーツ実況や講演会・セミナーなど年間200以上の司会・MCを務める。
第1部の様子。学校部活動の現状と限界について、それぞれの立場から議論が交わされました。
中学校部活動から地域クラブへの移行が進む中、「活動の質や指導環境は担保されるのか」「子どもの心身のリスクはどうなるのか」といった懸念を抱く保護者や関係者の方も少なくありません。しかし、教育社会学を専門とする内田氏は、そうした声に対して「これまでの学校部活動は、本当にそんなにマシな環境だったのでしょうか?」と切り出します。
内田氏私は学校の中で子どもや教師が出遭うさまざまなリスクや事故を調査していますが、部活動というのは本当に問題が山積みの領域でした。教員の長時間労働に関する問題はもちろんですが、生徒にとっても顧問が素人か経験者か、自分の学校にどんな部活が用意されているかによって、参加の機会に大きな格差が生じており、これを私は「部活ガチャ」と呼んでいます。全国的には規模の大きな学校ほど練習時間が長くなり過熱する傾向もあり、もはやこのままでは今のシステムは持たない、限界を迎えているのが実情です。
これまでの中学校部活動が抱えていた「ゆがみ」を指摘した上で、内田氏は次のように続けます。
内田氏だからこそ、子どもたちの心身を守り、選択肢を広げるためには地域での活動にシフトしていくしかないんです。国も制度整備を進めていますが、その中でも神戸市が進めるコベカツは、校区による制限なしに多様な活動から主体的に選択できる環境を確保しており、全国を見渡しても非常に先を行く取り組みだと感じています。これは、いまの時代に合った新しい受け皿をつくる重要な一歩です。
データを用いて地域クラブへの移行の必然性を解説する内田氏。福本教育長からは、教員の負担を軽減しつつ、子どもたちが主体的に選べる環境を地域に広げていくことの重要性が語られました。
福本氏教育委員会としても、教員の負担を軽減し本来の教育活動を充実させると同時に、子どもたちの選択の幅を広げていく必要性を強く感じています。コベカツを通じて、生徒が多様な活動から「やりたいこと」を自ら選び、地域の方々と一緒に活動を楽しめる環境を将来に渡って確保していきたいと考えています。
こうした意見を受けて、自らもNPO法人を立ち上げ中学校の部活動支援を行っている鳥谷氏は、アスリートとしての視点から「主体的に選べる環境」の価値について語りました。
鳥谷氏NPO法人 Kizunaという団体で、中学校の部活動支援を行っていますが、他の地域などで移行を進めようとしても、なかなかうまくいかない現実を目の当たりにしてきました。そんな中で、神戸市がこうして一早く動いている取り組みは本当にすごいことだと感じています。これまでは、学校に用意された部活の中から選ぶしかなく、どうしても大人の指導や言われたことに従うだけで、子ども自身の意志が働きにくい環境になりがちでした。しかし、コベカツのように多様な選択肢が用意され、子どもたちが自分から主体的に選べる環境があることは、全く意味が違います。自分で選んだからこそ、子どもたちは自ら考えて行動できるようになるのだと思います。
NPO法人理事長としての経験も踏まえ、子どもたちが主体的に環境を選ぶ重要性を語る鳥谷氏。各登壇者の意見を巧みに引き出し、スムーズに議論を進行する田中アナウンサー。
鳥谷氏の言葉は、コベカツが単なる「部活動の代わり」ではなく、子どもたちの自立を促す新たな教育の場であることを示唆しています。専門家と行政、そしてアスリート、それぞれの視点から「地域で育む」ことの重要性が再確認され、第1部が終了しました。
【第2部】 取り組み発表「鉄人★未来ロボット・アートクラブ」
続く第2部では、実際にコベカツの多様さを体現するような、先進的なコベカツクラブの活動事例が紹介されました。コベカツならではの具体例として登場したのは「鉄人★未来ロボット・アートクラブ」です。
長田区の駒ヶ林中学校を拠点とする同クラブでは、プログラミングやロボット制作を通じて子どもたちが自律的に学ぶ環境が提供されています。この日は実際に活動に参加している中学生たちが登壇し、日々の取り組みを映像を交えながら紹介しました。
「僕たちはレゴブロックを使ってロボットを作り、タッチセンサーやジャイロセンサーを組み合わせてプログラミングを行いました」
「リモコン操作で前、後ろ、右、左へと動き、さらに物をつかんで離すといった動作ができるロボットです。また、手の指の動きをカメラで読み取り、画面上のキャラクターを上下左右に操作できるパックマンのゲームも作りました」
自分たちのアイデアを形にするプロセスが発表されると同時に、そこから見えてきた客観的な「反省点」も語られました。
「今回のロボットは、人間による細かいプログラム作成とリモコン操作で実現したものです。しかし、それでは環境の条件変化に応じた多様な『自律動作』ができないということが、この作品制作から得た反省点です」
与えられた課題をこなすだけでなく、試行錯誤の中から「次はどうすればもっとうまくいくか」を自分たちで考え抜く。従来の中学校部活動にはなかったようなジャンルの多彩なクラブがあるのも、コベカツの大きな魅力です。
中学生たちによる活動発表の様子。プログラミングで動くロボットや自作ゲームの映像が紹介され、最後には論理的な「反省点」も語られるなど、これからの時代に必要な学びの形が示されました。
【第3部】 地域に育まれ、未来へ羽ばたく子どもたちへ
第3部では、再び鳥谷氏と同じく元プロ野球選手の能見氏を迎え、トップアスリートの視点から子どもたちのスポーツへの向き合い方や考え方についてのメッセージが送られました。
1979年生まれ。兵庫県出身。鳥取城北高校では「高校三羽ガラス」として注目を集め、大阪ガスを経て2004年ドラフト自由獲得枠で阪神タイガースに入団。09年に自身初の2桁となる13勝を挙げ、13年にはWBC日本代表に選出。18年には球団生え抜きでは山本和行以来となる通算100勝を達成。20年には球団最年長となる41歳5カ月でセーブを記録。21年からオリックスでプレーし、22年に現役を引退。引退後は野球評論家として活動するほか、24年12月から侍ジャパンの投手コーチに就任。14年からは子どもたちへの玩具寄贈など社会貢献活動にも取り組む。
両氏のお話の中で特に強調されていたのは、幼少期からひとつの競技に縛られる必要はないという点です。
鳥谷氏アスリートとして成功する秘訣は、子どもの頃からひとつの競技に縛られない、そればっかりにならないことだと思っています。私は中学生までの間、野球以外にも柔道やサッカー、バスケットボールなど、いろいろなスポーツをやっていました。特に野球だけに力を入れていたわけではなく、家でバットを振ったこともありませんでしたね。とにかくいろいろなことを経験する中で、最終的に自分で「野球をやりたい」と選んだんです。
能見氏僕も同じで、ただ外で遊ぶのが好きだっただけで、誰かに強制されて野球をやっていたわけではありません。自分で考えて、工夫しながら遊ぶ中で自然と身についていった部分が大きいと思います。
お二人の言葉からは、大人が敷いたレールを歩むのではなく、多様な選択肢に触れ、自ら「やりたい」と選び取ることの大切さが伝わってきます。これはスポーツに限った話ではなく、文化や芸術などあらゆる活動に通じる本質的なメッセージです。
鳥谷氏昔と比べると、今は本当にいろいろな選択肢が増えたと思います。コベカツのように、たくさんの選択肢が用意されている環境は本当に素晴らしい。やってみて「自分には合わないな」と思ったら、別のことにトライしてみればいいんです。いろいろなことを経験して、自分が本当に好きなものを見つけてほしいですね。
能見氏本当に好きなことなら、周りから見て「がんばっている」と思われても、自分自身はがんばっているという感覚がないものだと思います。そんなふうに夢中になれるものを見つけられるのが大切ですし、見つけられるまでいろいろなことにチャレンジしてみればいいと思います。
トップアスリートとして活躍してきたお二人。「ひとつの競技に縛られず、様々な活動を経験することが、結果的に将来の可能性を広げる」と、コベカツの理念に重なる説得力のある言葉が送られました。
子どもたちからの質疑応答コーナー。活動への向き合い方についての真剣なアドバイスに加え、WBCやお二人の直接対決など現役時代の裏話も飛び出し、会場は大いに盛り上がりました。
「鳥谷氏、能見氏は本当に裏表がない人なんですよ」といったエピソードも交えながら、終始和やかにイベントを進行する田中アナウンサー。
子どもたちの未来のために
イベントの最後には、これからの未来を担う子どもたちへ向けて、力強いエールが送られました。
鳥谷氏今日集まった子どもたちには、たくさんの選択肢の中から自分の好きなことを見つけて、どんどんチャレンジしていってほしいと思います。
能見氏コベカツという素晴らしい環境の中で、人から言われてやるのではなく、自分から進んで行動できる力を身につけてください。
田中氏本日のこの場が、将来の自分の姿を想像し、夢や希望を持ってコベカツに参加するきっかけになれば嬉しく思います。
大人が決めた一つの正解を押し付けたり、古い指導方法で強引に子どもを引っ張っていくような時代は終わりを告げています。これからの社会に必要なのは、子どもたち自身が「やりたい」と思うものを自ら選び取れる、豊かで開かれた環境です。
「コベカツ」は、まさにそのための新しいプラットフォームです。特定の学校や部活という枠組みを越え、トップアスリートや地域の専門家、そして神戸のまち全体が一体となって、子どもたちの新しい一歩をポジティブに応援しています。
まだはじまったばかりのこの取り組みは、これから先、子どもたちが自らの羅針盤で未来の海原へと漕ぎ出すための大きな原動力となっていくでしょう。さあ、神戸の子どもたちの新しいチャレンジが、ここからはじまります。
[取材・編集・文:岩佐 総一郎]



