「本当にやりたいこと」がここにある。自らの意思で選び、熱中できる新しい「居場所」
放課後の時間をどう使い、何に打ち込むか。今、中学生たちの目の前には、これまでの学校の枠組みを超えた新しい選択肢が広がり始めています。
今回訪れたのは、神戸市内5つの中学校(渚中学校、原田中学校、鷹匠中学校、御影中学校、歌敷山中学校)を会場として曜日ごとに実施されている「神戸キャラクターイラスト活動部」です。漫画やアニメ、ゲームなどが好きな生徒たちが集まり、タブレットを使ったデジタルイラストから、紙と鉛筆・シャープペンシルなどを使ったアナログイラストまで、それぞれの好きなスタイルでキャラクター制作に取り組んでいます。
1回1時間半の活動は、最初の20分ほどでキャラクターを描く上での基礎技術や考え方を学び、残りの時間は各自が描きたい作品に自由に取り組むというスタイルです。取材に伺った鷹匠中学校の教室の扉を開けると、そこには従来の中学校の部活動とはまた違った、特別な空気が流れていました。誰に強制されるわけでもなく、生徒たちが自らの意思でこの場所に集い、時間を忘れて画面やスケッチブックに向かっています。
イラストレーターとして活躍する指導者の進藤さんと、ここで「本当にやりたいこと」と「自分の居場所」を見つけた中学生たちに、活動の魅力についてお聞きしました。
兵庫県在住のフリーイラストレーター。大学で建築を専攻するかたわら独学でイラスト制作を始め、SNSなどでの作品発表を通じて商業イラストレーターとしてのキャリアをスタート。音楽ユニット「ずっと真夜中でいいのに。」のカードイラストや、三宮センタープラザのPRキャラクターデザイン、企業・学校のパンフレットイラストなど幅広い分野で作品を手掛ける。イラスト系専門学校の講師も務めており、現場で培った視点と技術を中学生に伝えている。
「自分が中学生の時にあったら最高だった」と思える場所を目指して
── プロのイラストレーターとして活躍される中で、なぜ中学生向けの「コベカツ」に参画しようと思われたのでしょうか。
進藤さん一番の理由は、この活動に間違いなく需要があると感じたからです。私はフリーのイラストレーターとして活動しながら、イラスト系の専門学校や高等課程のある学校で講師も務めています。その業務の中で、職業体験という形で関西の中学校や高校の美術部へ赴き、授業をさせていただく機会がありました。
すると、訪れた美術部では9割ほどの生徒がアニメやゲーム系統のイラストを描いていたんです。学校の美術の先生はデッサンや油絵といった純粋美術を専門とされていることが多く、アニメ系のキャラクターイラストとなると専門外で、具体的なアドバイスをするのが難しいという状況がありました。かといって、イラストを専門的に学ぶために芸術系の大学や専門学校に通うとなると、年齢的にも金銭的にもハードルが高くなります。そこで「中学生が気軽にイラストを学べる場所があったら最高やん!」と考え、2年前に個人のイラスト教室を立ち上げました。その延長として、より多くの子どもたちにこの機会を届けたいという思いからコベカツに参加しました。
── 「自分が中学生の時にあったら最高に嬉しかった場所を作りたい」とおっしゃっていたのも印象的でした。進藤さんご自身は、どのような中学時代を過ごされていたのですか?
進藤さん実は、私が中学生の頃は「絵が上手くなろう」なんて全く思っていなくて、ノートの端にポケモンの落書きをちょろっと描いている程度でした。本格的にうまく描こうと意識し始めたのは高校3年生くらいからで、大学では建築が専攻だったのですが、独学で好きに描いたものが人に評価してもらえて、お仕事に繋がっていったという経緯があります。
私たちの中学時代は、アニメや漫画といえばまだ「サブカルチャー」の色合いが濃かったと思いますが、「鬼滅の刃」などの大ヒットもあり、今は誰もが見るメインカルチャーになりつつあります。さらに学校でタブレットが配布されたり、スマホの無料アプリがあったりと、デジタルで絵を描く敷居もすごく下がりました。だからこそ、「あの頃の自分がこんな場所にいたかった」「青春時代に同じ趣味を持つ子たちが気兼ねなく集まって活動できる場所が欲しいだろうな」という思いが、活動の根底にあります。
── 今はYouTubeなどの動画でも絵の描き方を学べる時代ですが、動画での独学と比べて、このクラブならではの強みはどんなところにありますか?
進藤さんまず一つは、「絵を描く環境が整う」ということです。家で一人だと、描き始めるまでに少しハードルがあったりしますが、ここに来れば周りに同じような趣味を持つ仲間が集まっていて、みんなが絵を描いています。その空気の中にいると、自ずと「よし、自分も描こうかな」という気持ちになり、スタートダッシュがかけやすくなります。
もう一つは、動画と違って「個別指導ができる点」ですね。YouTubeでも学べますが、例えば生徒が「ミニキャラを描きたい」と思っているのに、動画で「等身の顔バランスの正解」を見ても、自分が求めているものとのギャップが生まれてしまいます。ここでは一人ひとりの好きな作品やこれまでの経験を聞き出して、「この子なら今こういう内容が一番刺さりやすいかな」と噛み砕いて伝えられるので、必要のない遠回りをせずに済むのが大きなメリットだと思います。
真剣な眼差しでタブレットやスケッチブックに向かう生徒たちと、一人ひとりの席を回って目線を合わせる進藤さん。それぞれのペースが尊重される自由でクリエイティブな空間です。
「指導」ではなく「アドバイス」。商業目線のヒントと週1回のサイクル
── 活動の中で、進藤さんが一番大切にしているコンセプトを教えてください。
進藤さん一番大切にしているのは「好きなモノを楽しく描く」ことです。技術を向上させるためには継続が必要で、継続するためには何より「楽しさ」が必要です。極論を言えば、技術だけを追い求めて上手くなっても、楽しくなくなって筆を折ってしまっては元も子もありません。まずは安心できる場所で、好きなものを好きなように描いて楽しむこと。「これはこうだからダメだよね」といった否定や強制は一切しないようにしています。
その「楽しく描く」という土台ができた上で、自分が少しずつ上手くなっているという実感を持ってもらえるよう、目標に応じた正しい方向をちょっとだけ示してあげるイメージで関わっています。
モニターを使って人体の比率や構造を解説する進藤さん。「絵に絶対的な正しさはないからこそ、指示ではなくアドバイスにとどめています」と語ります。
── 生徒さんには「指導や指示ではなく、アドバイス」と伝えているそうですね。プロとしての商業目線からは、具体的にどのようなアドバイスをされているのでしょうか。
進藤さん印象やアート的な観点も含めると、絵に絶対的な正解はありませんし、時代によっても求められるものは変わります。例えば、20年近く前に流行していたアニメの顔と、今のVTuber系統のイラストとでは、顔のバランス感が全く違います。今の流行りであれば「目と目の間は目1個分くらい」「顔の下半分に目がある」といった特徴がありますが、これも時代が変われば違ってきます。だからこそ、私が伝える内容は生徒自身が取捨選択できる「アドバイス」としています。
その上で、私が大切にしている商業目線・プロ目線からのアドバイスとは、一言で言うと「人に伝わりやすい絵を描く」ということなんです。例えば「可愛い女の子」を描くとき、体の骨格が歪んでいると見る人にその可愛さが伝わりづらくなります。世に出ている公式イラストや商業カードの比率を観察してみると、「肩から肘、肘から手首がだいたい1対1」「手を下ろした時に股の位置と手首の位置が揃う」といった定石(型)があります。さらに「可愛らしさ」を表現したいなら、アイドルのポーズのように手を顔の近くに置いてみる、というような定石を知った上で、「あえて手をすごく大きく描いてみる」と可愛く見えるんじゃないか、というような工夫や試行錯誤ができると思うんです。まずは伝わりやすい「型」を覚えてもらい、そこから自分なりにずらす「型破り」へと進んでいけるようなアドバイスを心がけています。
── 生徒さんのモチベーションを引き出すために、声かけで工夫されていることはありますか?
進藤さん人のイラストって、「ここができてないで」と指摘しようと思えばいくらでも指摘できてしまうものなんです。だから、できていない部分を指摘するよりも、本人が何気なく描いている中から「できている部分」をピックアップして伝えることを大切にしています。例えば「他の人と比べて、すごく可愛らしさがにじみ出ているね」「髪の毛先の描き方がすごく丁寧だね、こういう表現が好きなんじゃない?」と伝えてあげると、生徒自身も「そうか、自分にはこういう良さがあるんだ」と自覚して、それを自分の武器にしていけるんです。
また、週1回・1時間半という短時間の活動スタイルも、良いサイクルを生んでいます。「コベカツで絵を描き始める」→「1週間の間に自宅で完成させる」→「次回のコベカツで見てもらいアドバイスを受ける」→「それを元に新たに描き始める」というように、自然とPDCAサイクルの習慣が身につくんですね。はじまったばかりのコベカツクラブに来ている生徒の中にも、すでにこのサイクルに乗ってバランス感覚を掴み、みるみる上達している子がいます。
渚中学校での活動風景。黒板やモニターを使った分かりやすい解説のほか、進藤さんを交えて他校の仲間と楽しそうにイラスト談義に花を咲かせる姿が見られました。
情熱を解き放つ場所。そして、自然と広がる「好き」の輪
鷹匠中学校の会場で生き生きとペンを走らせていた2名の生徒、HさんとKさんにもお話を伺いました。Hさんは放送部に所属しながらこのクラブに参加しており、Kさんは同じ中学校の友達3人と体験に参加した後、友達が曜日の都合で別の中学校の「神戸キャラクターイラスト活動部」へ移ったため、鷹匠中学校には一人で通っています。
── このイラスト活動部に参加したきっかけと、今描くのが好きなキャラクターを教えてください。
Hさん学校にこのクラブのポスターがあって、私はイラストを描くのが大好きなので目に止まりました。その日のうちに親に「これに行きたい!」と伝えて参加を決めました。好きなのは「東方Project」のキャラクター「藤原妹紅」です。放送部もみんな自由でのびのびしていて楽しいのですが、ここもみんなでずっと絵を描いたり、おしゃべりしたりしていても大丈夫な自由さがあって、すごく楽しいです。
Kさん私はイラストを描く友達から紹介してもらい、「私も行きたいな」と思って両親に相談しました。最初は友達と一緒にこっち(鷹匠中学校)に来ていたのですが、友達は別の曜日の中学校になりました。でも、ここに来るのはめっちゃ楽しいですよ、来た方がいいです! 最近ハマっているのは、VTuber「にじさんじのローレン・イロアス」です。学校の美術の授業だとみんな同じ「授業の課題」を描くけれど、ここはみんな「自分の夢や描きたいもの」を持って集まっているので、楽しく集中して描けるから断然こっちの方がいいですね。
── これまでどんな風に絵を描いていましたか?また、ここに来てから変化はありましたか?
Hさんこれまで専用のお絵描きアプリではなく、タブレットの「メモ機能」を使ってイラストを描いていたんですが、レイヤー(階層分け)などの機能も使わずに、ただただ描いて色を塗るという感じで、本格的にはやっていなかったんです。でも、ここに来てキャラクターのパーツの位置や描き方が変わってきて、日々上手くなっているのを実感しています。次のイラストコンクールには出られそうなイラストになってきました!これからもっと迫力のある、遠近感のある絵を描けるようになりたいです。
Kさん私の活動は本当に自由で、先生も「アドバイスだから気にしなくてもいいよ」と言ってくれるので、今は基礎を習いながら自由に描いています。家でも絵を描く時間が増えて、昨日から「絶対に1日1枚絵を描く」という目標を立てました! もし将来、夢に向かってイラストを描いていくとしたら、今の時代はiPadなどのデジタルで描いて発信する人が多いと思うんですけど、私はあえて鉛筆やシャーペンを使ったアナログで、見る人の目を引くような、キャラクターの魅力が詰まったイラストを描きたいと思っています。
進藤さんのアドバイスに耳を傾ける、この日初めて参加した生徒さん(中央)とKさん(右)。Kさんは、初めて参加の子ともすぐに打ち解けていました。
以前、メモ帳アプリで根気よくイラストを描き続けていたHさんが、専用の環境や進藤さんの知見に触れて意欲を燃やす姿や、デジタル全盛の時代に「あえて鉛筆やシャーペンで魅力を引き出したい」と語るKさんの言葉からは、自分の「好き」に対する強いこだわりが伝わってきます。
また、取材を通じてとても印象的だったのは、教室全体に流れるオープンで温かい空気感です。Kさんはアニメや漫画にそこまで詳しくなくても「ノリで楽しく話せる」と笑います。実際、この日初めて体験参加に訪れて一人で座っていた生徒に対しても、Kさんがごく自然に声をかけて隣の席へと招き入れ、帰り際にはすっかり打ち解けて明るく挨拶を交わして別れる姿がありました。個人の作業になりがちなイラスト制作でありながら、ここは学校の枠を超えて仲間と繋がれる心地よい「居場所」になっています。
用意された選択肢を超えて。「自分の居場所」と「生きがい」を見つけるために
── 最後に、進藤さんが描く今後の展望と、これから参加を検討している子どもたちへのメッセージをお願いします。
進藤さん現在は5つの中学校で活動していますが、今後は各会場20名ほどの規模に広げて、「このイラスト活動部があるからこの中学校に行きたいな」と思ってもらえるくらいの活動にしたいと考えています。これまで美術部に入っていた子も、「美術部だと油絵やデッサンのハードルが高そうだな」と足踏みしていた子も、まとめて気軽に飛び込めるような間口の広い場所にしていきたいですね。また、今は放課後の1時間半でわちゃわちゃと楽しく活動していますが、もし要望があれば、その後の時間帯を使って「ほんまに上手くなりたい!」という生徒たちに向けた少人数制の「ガチ版」のようなクラスもやってみたいと考えています。イラストに限った話ではなく、子どもたちには学生時代を「自分の好きなものを見つける時間」にしてほしいと思っています。ガチガチに上手くなってやろうと気負わなくても、技術はいつからでも身につけられますから、まずは友達との時間を大切にしながら気楽に参加してほしいですね。
その上で、「絵がほんまにめっちゃ好きやわ!」というような熱中できるものを見つけることは、一つのことに集中して取り組んだという大きな財産になりますし、長い人生における「生きがい」を見つけるきっかけになる可能性も秘めています。絵の上手さって、単に形を正確に取れることだけじゃなくて、「どう相手に伝えるか」「いかに可愛く、かっこよく、魅力的に描くか」という本当に奥が深い世界なんです。一人で描いているよりも周りに仲間がいる方がより楽しいですし、ここは絵を描く本当の面白さに気づける場所になっているので、ぜひ気軽に来てほしいですね。
限られた選択肢の中から「なんとなく」選んだのではなく、自らの意思で選び取った「本当にやりたいこと」だからこそ、子どもたちは驚くほどの集中力を発揮し、目を輝かせています。
従来の中学校の枠組みではなく、地域の多様な選択肢の中から自分の情熱を注げるものを見つけること。好きなことに没頭し、仲間と自然に笑い合う生徒たちの姿は、「自分の居場所は、自分の『好き』という気持ちで作り出せる」ということを教えてくれます。神戸キャラクターイラスト活動部は、そんな子どもたちの真っ直ぐな思いを受け止め、背中を力強く押してくれる、新しい地域クラブの理想的なカタチでした。
[取材・編集・文:岩佐 総一郎]



