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コベカツレポート

VOL.
03

「子どもファースト」でありつつ「大人も楽しむ」。スポーツも文化も包括する「地域クラブ」の新しいカタチ

KOBEジュニアハイスクールクラブ
2026.10.01

「できない理由ばかりを並べる人が多いけれど、誰かがやらないと始まらない……」

KOBEジュニアハイスクールクラブの理事長であり、創立者でもある岩田哲也さんの言葉です。

今、中学校の部活動は大きな転換期を迎えています。教員の負担軽減や少子化による部員不足といった時代背景もあり、これまでのあり方が見直されようとしています。

「世界的に見ても、学校教育の中にこれほど部活動が組み込まれているのは日本くらいです。しかし今、教員の負担や少子化により、従来のシステムは持続が難しくなっています。このままでは子どもたちが活動に打ち込む環境がなくなってしまうのではないか」

地域スポーツに携わってきた岩田さんは、そうした強い危機感を抱いていました。何もないところから有志を集め、まずは自分たちで子どもたちの受け皿を作ろうと立ち上げたのが、KOBEジュニアハイスクールクラブです。今回は、本クラブを牽引する大人たちに、多様な活動の現場とそこに込めた熱い想いをお聞きしました。

岩田 哲也さん
NPO法人KOBEジュニアハイスクールクラブ 理事長

1974年神戸市生まれ。JR西日本ラグビー部ゼネラルマネージャーなどを歴任し、地域スポーツに携わる。中学校のクラブ活動が減少する現状に危機感を抱き、2022年に有志と共に同クラブを設立。子どもファーストに基づいた「プレーヤーズセンタード」を掲げ、新しい地域クラブの形を牽引している。

石田 靖恵さん
茶道部 代表
古儀茶道藪内流準教授
兵庫県茶道協会幹事

茶道に対する堅苦しいイメージを取り払い、子どもたちに日本の伝統文化の楽しさを伝えている。完璧な作法よりも、自分のできる精一杯で相手をおもてなしするというマインドを重視し、文化活動を通じた子どもたちの居場所づくりを担っている。

学校の先生に任せきりにしない。世界標準の「地域クラブ」を目指して

── 創部の理念が、まさに中学校部活動が抱える課題解決そのものだと感じます。設立の原動力は何だったのでしょうか。

岩田さん一番の原動力は、「このままでは子どもたちの活動環境がなくなってしまう」という強い焦りでした。2022年頃、子どもたちが学校の部活動を十分にできない状況になっていくのを見て、なんとか地域で受け皿を作れないかと考えたんです。しかし、最初は「予算がない」「場所がない」「人がいない」と、できない理由ばかりが聞こえてきました。それなら、自分たちでやるしかないと。教育委員会や各競技団体に掛け合い、まずはラグビー部から試行的にスタートさせたのが始まりです。

── 何もないところからのスタートで、周囲を巻き込んでいくのは大変だったと思います。

岩田さんそうですね。でも、世界を見渡せば、スポーツや文化活動は地域クラブが主体となって行うのがスタンダードなんです。日本のように学校の先生に任せきりにするシステムの方が特異とも言えます。学校単位の部活動から、地域社会全体で子どもたちを育むクラブ活動へと変わっていくのは必然の流れです。地域の多様な大人が関わることで、結果的に子どもたちの視野も広がるはずだという確信がありました。

日本特有の部活動のあり方に危機感を抱き、子どもたちの環境を守るために自ら行動を起こした岩田さん。

── KOBEジュニアハイスクールクラブでは、「プレーヤーズセンタード(子どもファースト)」を掲げていますね。

岩田さん強豪校によくある勝利至上主義や、昔ながらの怒声で指導するようなやり方は、私たちのクラブには必要ありません。主役はあくまでプレーヤーである子どもたちです。ただ、何でもかんでも子ども優先というわけではなく、指導する大人やサポートする保護者も「一緒に楽しむ」ことが大切なんです。大人が嫌々やっていたり、義務感だけでボランティアをしていたりすると、その空気は絶対に子どもに伝わってしまいますから。

── スポーツだけでなく、文化活動も包括しているのが特徴的です。

岩田さんスポーツはスポーツ、文化は文化と分けるのではなく、それらを交わらせて新しい化学反応を起こしたかったんです。実際、企業の社長さんなど地域の方々にもスポンサーとして支援いただいていますが、単にお金を出してもらうだけでなく、私たちの「子どもを地域で育てる」という理念に共感し、情熱を持って関わってくれる方にお願いしています。そうした多様な大人との関わりが、子どもたちにとって最高の教育環境になると思っています。

岩田さんラグビーは「子どもを大人にし、大人を子どもに戻すスポーツ」だと言われます。身体のぶつかり合いがあり、痛さや怖さから逃げられない状況で、いかに仲間のために身体を張れるか。そんな厳しい環境だからこそ、大人も子どものように夢中になってしまうし、子どもたちを人として大きく成長させてくれるんです。

「やりたい!」という自発的な意志が、子どもを大きく成長させる

スポーツの熱気とはまた異なる、落ち着いた空気感を持つ茶道部。代表の石田さんは、子どもたちの「自発性」に大きなやりがいを感じています。

── 学校の授業や従来の部活動と比べて、KOBEジュニアハイスクールクラブの茶道部ならではの良さはどんなところでしょうか。

石田さん一番の違いは、子どもたちの熱量です。学校の部活だと、なんとなく入部した子や、お茶菓子目当てで来る子もいたりするのですが、ここに通ってくる子たちは「お茶をやってみたい」「学びたい」という自発的な意思で来ています。だから吸収力も違いますし、教える私たちも本当にやりがいがあって楽しいんです。

── お作法など、子どもたちには少し難しそうなイメージもありますが。

石田さん茶道と聞くと堅苦しいイメージがあるかもしれませんが、大切なのは完璧な作法ではありません。自分ができる精一杯で、相手にお茶をお出しする。その思いやりの心が一番の目的なんです。少しくらい間違えても気にしなくていいと伝えています。学校の教室とは違う、地域のお寺や文化センターという空間で活動する中で、相手も自分も大切にするマインドが自然と育っていくのを感じますね。

自分ができる精一杯でおもてなしをすることが一番の目的だと、温かく語る石田さん。

インタビューをさせていただいた日は、茶道部の体験会が実施されていました。初めての体験に、子どもたちは興味津々な様子でお茶を点てていました。

勝つことよりも楽しむこと。多様な仲間と出会える場所

さらに、誰もが知る「ドッジボール」をクラブ活動として指導する武村さんと、クラブ全体を支えるアスレティックトレーナーの梶原さんにお話を伺いました。

武村 美邦さん
ドッジボール部 代表・ヘッドコーチ

休み時間の遊びではない、仲間と共に戦術を練るチームスポーツとしてのドッジボールの楽しさを中学生に伝えている。勝敗以上に、子どもたちが全力で楽しみ、安心して過ごせる居場所づくりを最優先に活動している。

梶原 康生さん
クラブアスレティックトレーナー

日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、鍼灸師(はり灸うたたね 院長)。専門的な身体のケアやトレーニング指導を通じて、「スポーツを好きになってもらうこと」を第一に掲げる。学校や地域の垣根を越えた仲間づくりをサポートしている。

── 中学生になってからクラブ活動として取り組むドッジボールには、どんな魅力があるのでしょうか。

武村さん私たちのドッジボール部では、試合に勝つことよりも、まずは楽しむことと、子どもたちの居場所づくりを優先しています。もちろん練習を重ねて技術が向上する喜びもありますが、向かってくるボールをキャッチできたときの純粋な嬉しさや、仲間と一緒にコートの中で笑い合える時間を一番大切にしているんです。運動が苦手な子でも、ここに来れば楽しいと思えるようなチームを目指しています。

子どもたちのイキイキとした表情を引き出す基礎トレーニングのひとコマ。

── 梶原さんはトレーナーとして、どのように子どもたちと関わっていますか。

梶原さんケガを防ぐための専門的な身体の使い方を教えることももちろん大事ですが、私が最も大切にしているのは、子どもたちにスポーツを「好き」「楽しいな」と思ってもらうことです。新しい環境で最初は戸惑う子もいるかもしれませんが、いろいろな地域から集まった仲間と出会い、そこで一緒に身体を動かす楽しさを知ってほしいんです。親でも学校の先生でもない地域の大人として、彼らが前向きにスポーツと向き合える環境を作っていきたいですね。

子どもたちがスポーツを好きになる環境づくりをサポートする梶原さん。

みんなの「やりたい」を応援する、広がる活動の輪

KOBEジュニアハイスクールクラブには、他にも子どもたちの好奇心を刺激する魅力的なクラブが数多く存在しています。

【フェンシング部】 フェンシングは瞬間の判断力、論理的な思考力、相手の心理を読む力、リズム感など運動能力以外の要素も大きいスポーツです。運動に自信のある子も、そうでない子も大歓迎の環境で、実戦形式を中心に楽しく活動しています。

【華道部】 華道(いけばな)とは、四季折々の花や葉、枝を自分の思いとともに美しく飾ることです。今咲いている花にだけ美をみるのではなく、蕾を見て未来を感じ、枯れた花には命の軌跡を想い、自然と命との調和を慈しむという考えのもと、繊細な命を扱うことから感謝の気持ちなどを学んでいきます。

【農業部】 土作りから野菜の収穫まで、自分たちの手で体験することができます。デジタル化が進み、自然と触れあう機会が少なくなっている子ども達に、身近な自然の中で土作りから収穫までの野菜作りを、みんなで協力し合って楽しみ、食の大切さも学んでいけるクラブです。

ここで、岩田さんに農業部を立ち上げた想いについてもお聞きしました。

── 多様なクラブがある中で、農業部があるのが面白いなと思ったのですが、設立のきっかけは何だったのでしょうか?

岩田さんスポーツや文化活動以外にも、子どもたちが直接土に触れて、自分たちで作ったものを食べるという経験をしてほしかったんです。最初は「なんで農業?」と驚かれることもありましたが、種まきから収穫まで、みんなで協力して作り上げる過程そのものが、子どもたちの良い居場所になっていますね。

子どもたちが自立して羽ばたく未来を目指して

── 最後にお聞きしたいのですが、KOBEジュニアハイスクールクラブが将来的に見据える未来とは、どのような景色でしょうか?

岩田さん今は中学生の活動支援が中心ですが、これはあくまで一つの通過点に過ぎません。最終的に目指しているのは、子どもたちがこれらの活動を通じて自ら考え行動できる、自立した人間に育つことです。
学校の中だけで完結していた世界から一歩外に出ることで、企業の社長さんや、トレーナー、茶道や農業の専門家など、地域で活躍するかっこいい大人たちに出会うことができます。その経験が、子どもたちの視野を広げ、将来の進路のヒントになることだってあります。
そしてゆくゆくは、中学生だけでなく、生涯にわたってスポーツや文化芸術活動ができるクラブとして、地域に定着させたいと考えています。資金や場所などハードルは確かにありますが、情熱を持った大人が集まれば道は必ず開けます。大事なのは、大人が子どもたちと一緒に本気で楽しむこと。これからも地域社会全体で子どもたちを育てるプラットフォームを成熟させていきたいと思っています。

学校という枠を飛び出し、多様な大人たちに囲まれながら、自分のやりたいことに真っ直ぐ向き合う子どもたち。そこには、大人が本気で楽しむ姿があり、それを見つめる子どもたちの確かな成長がありました。新しい地域クラブの形は、これからも子どもたちの未来を力強く広げていくはずです。

[取材・編集・文:岩佐 総一郎]

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